2011年から始めたフルス村の砂丘地緑化活動
KFG技術顧問 徳岡正三
2002年から始めた中国・蘭州の緑化支援は、2011年現在第3期を実施中です。来年2012年は10周年の節目を迎えます。
こうして私たちも経験を積み、何かしらゆとりも感じられるようになりました。現在蘭州と並行して、同じく黄河の流域にある内モンゴル・フルス村の砂丘地を緑化する活動にも取り組んでいます、この活動には日中緑化交流基金(小渕基金)の助成を受けて行います。
1.フルス村とは
中国・内モンゴル自治区・オルドス市・オトカ前旗・城川鎮にあります。図1の地図を見ていただきましょう。
写真4.ヒツジシバ
左:高さ2mほどになる(1mの折れ指しを当てている)
右上:葉(小葉)、右下:花
植栽には苗高30cmほどの実生苗を用います。
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沙障で保護します。
いきなり植えても乾燥地特有の強い風や、吹き飛ばされた砂の打撃などを受けてうまく育ちません。そこで、一種の防風垣である沙障を設けます。ここでは写真5のように、キク科ヨモギ属のアブラヨモギ(中国名は油蒿あるいは沙蒿)の粗朶(そだ)を列状にある幅で打ち立てて沙障とします。地上高は50cmほどです。
植栽は図3のようにさし木で行います。
長さ50cmほどの枝をわずかに地上部に出す程度にさし木をします。短期間に発根し、枝葉が成長します。3~5年後に地上部を刈り取ります。刈り取ると旺盛に萌芽更新が起こり、前よりもさらに多くの枝葉が成長します。しかし刈り取らずにそのままほっておくと枯れてしまいます。写真3は刈り取りと萌芽更新を繰り返して叢生状になったものです。自然にこうなったのではありません。
3.どのように緑化をしますか
前述の厳しい気象条件や、砂地・砂丘のような環境ではいきなり高木を植えたりすることはできません。
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低木を使います。
蘭州では植栽後に灌水をしたり、三水造林という方法で雨水補足や水分補給を考えたりしました。フルス村では一切そうしたことをしません。ですから、少ない雨水だけで育つ水の消費量が少なくて乾燥に強いスナヤナギとヒツジシバという低木を使います。
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スナヤナギはこんな木です。
中国語では沙柳(シャー・リュウ)といいます。ヤナギ科ヤナギ属の落葉低木です。最大で3mほどの大きさになります。フルス村の近辺はスナヤナギの主要な自然分布区の1つです。
そこで、飛砂害を防ぐために、緑化が可能な砂地や砂丘下部に植物を植え、砂地の固定(固砂)をはかる必要があります。
図1.オルドス高原(あるいはマオウス沙地)の南端にフルス村があります
黄河は蘭州を通過したあと、北へ、東へ、南へと向きを変えながら∩の形に流れます。その3方を黄河に囲まれた南に黄土高原、北にオルドス高原が広がります。またオルドス高原にはその南にマオウス沙地、北にクブチ砂漠という荒れ地が広がり、砂地や砂丘が広く分布します。
私たちはオルドス高原の南端、言い換えればマオウス沙地の南端に位置するフルス村に広がる砂地・砂丘地の緑化支援に取り組むことになりました。蘭州からは北東方向にフルス村まで約600キロの道程があります。日本から赴くときは、寧夏回族自治区の銀川から東へ車でオトカ前旗政府の所在するアオラチャオチ鎮まで行き、ここを拠点にしてフルス村に向かいます。銀川からアオラチャオチ鎮まで約1.5時間、そこからフルス村までは1時間ほどです。
少し気象条件に触れてみましょう。
蘭州と同じく、乾燥して雨が少なく、年平均降水量は290mmしかありません。これは日本の1/6程度です。一方蒸発量は2514mmもあります。年平均気温は7.4℃で、やはり日本の13.8℃に比べると6℃余り低くなっています。冬は寒くて長く、最低気温は-31.6℃が記録されています。強い風がよく吹き、いわゆる飛砂害をよく引き起こします。人にとっても植物にとってもたいへん厳しい環境であることが伺われます。
2.土地の状況はどのようですか
大昔この辺りは海あるいは大きな湖が広がり、そこに流れ込む多くの河川がえいえいと砂を運んだとされます。その上に草が生え、きれいな草原植生ができていました。その後長く続いた戦乱や人間の不合理な開発が土地を荒らし、下に埋まっていた砂を表に出させ、これが強風で動き出し、写真1のように広範囲に砂地・砂丘を生じさせました。ほっておくとこれらがまた飛砂害を起こし、砂で覆われた荒れ地が広がります。
沙障
スナヤナギ
写真9.左:ムレスズメ類の果実(豆果)を付ける枝葉
右:大面積に植えられたムレスズメ類写真8.左:モウコアカマツの枝葉、右:道路沿いにエンジュと一緒に植えられたモウコアカマツ(左側の大きい方。黒い線は灌水用のチューブ)
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ムレスズメ類も飼料としてよく植えられています。
マメ科ムレスズメ属の低木を総称して中国では檸条(ニン・ティアオ)といいます。写真9右のように、この中の数種が家畜の飼料としてわりと広い面積植えられています。ヒツジシバよりも目立つように感じます。刈り取って舎飼いの家畜に与えるそうです。
図5.「前擋后拉法」による砂丘の固定
図4.ペキンヤナギの「頭木作業」(小林ほか、日本緑化工学会誌15(2)より改変)
写真7左のようにある程度大きくなると、地上から2~3mの高さで幹を切断します。やがてこの切断部から多くの萌芽が起こります(写真7右の状態)。この萌芽枝葉を根元から切り取って各種の用途に使います。再び切断部から萌芽しますので、この枝葉を切り取って利用し、このサイクルを繰り返します。これが頭木作業です。必要なときは葉を除いた2~3mの枝を用いてさし木をします。このさし木で新たに個体が得られます。こうした大きな枝を用いるさし木を高杆造林といいます。
もともと牧畜のさかんなところですから、こうした頭木作業によって一部家畜の飼料を得ていました。そこで頭木作業が行われているペキンヤナギの集団は「空中牧場」と呼ばれました。
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ペキンヤナギは「前擋后拉」という砂丘固定法でも使われます。
前擋后拉は「前をふさぎ、後ろを引き下げる」と訳されます。これは風で砂が飛びやすい砂丘を数年かけて低くし、最終的に砂丘の全面を植物で覆い、飛砂を起こさないよう固定(固砂)する方法です。図5のように、まず風上側の砂丘脚部にスナヤナギなどの低木を、風下側後方にペキンヤナギなどの高木を数列植えます。スナヤナギ植栽地より上方の砂が後方へ飛ばされ、その砂がペキンヤナギ林で捕捉されます。低くなった砂丘の上方へ徐々にスナヤナギを植え継いで行き、ついには全面が植物で覆われるようにします。ペキンヤナギは上述の高杆造林で育成します。
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最近モウコアカマツが注目されています。
中国の北方では2種類のマツ科マツ属の高木がよく植栽されます。アブラマツとモウコアカマツです。中国名はそれぞれ油松(ヨウ・ソン)、樟子松(ジャン・ズ・ソン)といいます。このモウコアカマツが、写真8のように、フルス村に通じる主な道路の両側に植えられ、近辺の苗畑で苗木を養成しているのをよく見かけます。樹齢が若いので、最近さかんに植栽されだしたと推測されます。
枝を取ってさし木をする
枝を燃料や木材として、葉を家畜の飼料として利用する
写真7.左:ペキンヤナギの防風林、右:「頭木作業」をしているペキンヤナギ
写真6.緑化によって砂地を固定し、さらに固定植物の産業利用を考えています
5.その他緑化に関して話題がありますか
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ペキンヤナギの利用があります。
中国語では旱柳(ハン・リュウ)といいます。ヤナギ科ヤナギ属の高木です。高木ですからある程度水のあるところでしか育ちません。この木は写真7右のような特徴的な樹形をよく見かけます。これは「頭木作業」が行われているときにできる樹形です。頭木作業は図4のように行われます。
写真5.沙障の保護下で植える
スナヤナギもヒツジシバも、上の写真のように、3本ほどをまとめて植える「巣植え」をします。
4.2013年までの3年間でどのような成果をあげるのですか
スナヤナギとヒツジシバを用いて、毎年33.5ヘクタールの面積を緑化し、合計約100ヘクタールの砂地の固定を目指します。
写真6のように、裸の砂地がこれら2種を主体とした植物で覆われた緑地に変わります。そして、この緑地を損なうことなくうまく管理して、産業に役立てます。スナヤナギはその枝葉が家畜の飼料、燃材、防風垣やかご編の材料などに使えます。最近はパルプや繊維板の原料として注目されています。ヒツジシバはシナガワハギやコメツブウマゴヤシに匹敵するほど高い栄養価があり、家畜の飼料として特に優れています。また開花期が長くて蜜源植物としても高い価値があります。
このように、単に緑化をして終わるのではなく、より有効な土地利用をも視野に入れています。
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ヒツジシバはこんな木です。
中国語では楊柴(ヤン・チャイ)といいます。マメ科イワオウギ属の半低木です。根萌芽性が強く、根から新しい枝幹を成長させることができます。
枝をさし木する 枝葉と根が出る 地上部を刈り さらに多くの枝葉が 取って利用する 出る(上の写真3の状況)
図3.スナヤナギの植栽法
沙障の高さは
50cmほど
スナヤナギの巣植え